慢性疲労症候群(まんせいひろうしょうこうぐん)は、原因不明の強度の疲労が長期間(一般的に6ヶ月以上)に及び継続する病気である。英語 chronic fatigue syndrome や myalgic encephalomyelitis(筋痛性脳脊髄炎)、 post-viral fatigue syndrome(ウイルス感染後疲労症候群)の頭文字から CFS、ME、PVFS と呼ばれる。また重篤度が伝わらない・慢性疲労と区別がつきにくいということから、chronic fatigue and immune dysfunction syndrome(慢性疲労免疫不全症候群)という呼称を患者団体が提案してもいる。以下 CFS と略す。
患者が訴える主な症状は、身体及び思考力両方の激しい疲労と、それに伴い、日常生活が著しく阻害されることである。
長期間の疲労感の他に次の症状等を呈することがある。
- 微熱 ・咽頭痛 ・頸部あるいはリンパ節の腫張・原因不明の筋力低下
- 羞明 ・思考力の低下・関節障害 ・睡眠障害
原因不明の疾患で、通常、血液検査等も含む全身の検査を受けても他の病気が見つからず、精神疾患も当たらない場合に初めて疑われる(除外診断)病気である。ただし気分障害(双極性障害、精神病性うつ病を除く)、不安障害、身体表現性障害、線維筋痛症は併存疾患として扱い除外しない。 詳細に検査をすると神経系、免疫系、内分泌系などに異常が認められる場合もある。
アメリカ疾病予防センター (CDC) によると、完治は希で5%~10%であるものの、治療により改善したり、ある程度回復するとされている。日本では人口の0.3%にあたる約38万人がCFSを罹患していると推定されているが、認知度の低さにより、適切な診断を受けていないか、うつ病・神経症・更年期障害・自律神経失調症等に誤診されている患者が多いと思われる。
疲労とは、身体的または精神的疲労に分別され、痛みや発熱と並んで生体の3大アラームと言われており、身体に休息をとるよう脳に警告するシグナルである。CFS患者では、このシグナルが過剰に働くことにより身体が激しく疲労する症状が続くとされる。すなわちCFSは「身体的な疾患」である。よって、よく間違われることであるが、疲労が蓄積された慢性疲労とは別のものである。体内の不快苦痛・不自由さは生活の障害となっている場合も多く、故に疾病としてのケア・休養・治療、が必要である。
更に、慢性疲労症候群という名称も誤解されやすいものとして、改名を求める声があるが、現時点で改名のコンセンサスは得られていない。
20代から50代のうちに発症するケースが多く、患者全体のうち女性が6~7割程度を占め、アレルギー疾患を併発するCFS患者が多いと言われている。
- 疲労感 — 身体、精神両方に激しい疲労感が生じる。運動、精神活動によって疲労感が増すが、休息や睡眠による回復は遅い。疲労の程度には個人差があり、何とか働ける程度から寝返りも打てない者もいる。患者の約4分の1は、外出が困難か寝たきりの状態である。CDCの調査[1]によると身体的活動レベルは、多発性硬化症(MS)、後天性免疫不全症候群、全身性エリテマトーデス、関節リウマチ、最終段階の腎不全、慢性閉塞性肺疾患等の病気と匹敵すると報告されている。
- 痛み — 筋肉痛や関節痛(発赤や腫れがなく、移動性)、頭痛、リンパ節の痛み、喉の腫れ、腹痛、顎関節症、顔面筋疼痛症候群
- 知的活動障害 — 健忘、混乱、思考力の低下、記憶力の低下
- 過敏性 — 羞明、音への過敏、化学物質や食べ物への過敏。アレルギー症状の悪化。
- 体温調節失調 — 悪寒や逆に暑く感じることがある、微熱
- 睡眠障害 — 睡眠により疲れがとれない、不眠、過眠、はっきりした夢を見やすい。
- 精神障害 — 感情が変わりやすい、不安、抑鬱、興奮、錯乱、むずむず脚症候群
- 中枢神経障害 — アルコール不耐性、筋肉の痙攣、筋力低下、振戦、耳鳴り、視力の変化
- 全身症状 — 口内炎、朝のこわばり、頻尿、体重の変化、動悸、甲状腺の炎症、寝汗、息切れ、低血糖の発作、不整脈、過敏性腸症候群、月経前症候群、発疹
[編集] 診断基準
[編集] 日本疲労学会診断指針 2007
6か月以上持続する原因不明の全身倦怠感を訴える患者が、下記の前提I, II, IIIを満たした時、臨床的にCFSが疑われる。確定診断を得るためには、さらに感染・免疫系検査、神経・内分泌・代謝系検査を行うことが望ましいが、現在のところCFSに特異的検査異常はなく、臨床的CFSをもって「慢性疲労症候群」と診断する。
- 〔前提I〕
- 病歴、身体診察、臨床検査を精確に行い、慢性疲労をきたす疾患を除外する。ただし、抗アレルギー薬などの長期服用者とBMIが40を超える肥満者に対しては、当該病態が改善し、慢性疲労との因果関係が明確になるまで、CFSの診断を保留し、経過観察する。また、気分障害(双極性障害、※精神病性うつ病を除く)、不安障害、身体表現性障害、線維筋痛症は併存疾患として扱う(※妄想や幻覚を伴ううつ病の場合に、精神病性うつ病と呼ばれる)。
- 〔前提II〕
- 〔前提I〕の検索によっても慢性疲労の原因が不明で、以下の4項目を満たす。
- この全身倦怠感は新しく発症したものであり、急激に始まった
- 十分休養をとっても回復しない
- 現在行っている仕事や生活習慣のせいではない
- 日常の生活活動が発症前に比べて50%以下になっている。あるいは疲労感のため、月に数日は社会生活や仕事ができず休んでいる
- 〔前提III〕
- 以下の自覚症状と他覚的所見10項目のうち5項目以上を認める。
- 労作後疲労感(労作後休んでも24時間以上続く)
- 筋肉痛
- 多発性関節痛(腫脹はない)
- 頭痛
- 咽頭痛
- 睡眠障害(不眠、過眠、睡眠相遅延)
- 思考力・集中力低下
- 微熱
- 頚部リンパ節腫脹(明らかに病的腫脹と考えられる場合)
- 筋力低下((8)(9)(10)の他覚的所見は、医師が少なくとも1か月以上の間隔をおいて 2回認めること)。
今回、CFSに加え、特発性慢性疲労(英: idiopathic chronic fatigue、ICF)という診断名が追加された。上記前提I, II, IIIに合致せず、原因不明の慢性疲労を訴える場合、ICFと診断し、経過観察する。従来の「CFS疑診例」に相当するものだが、ICFは国際的に通用する用語であり、ICFという病態は患者に説明しやすく、診療報酬の観点からも有用と考えられている。
[編集] 厚生省診断基準案
- 大クライテリア(大基準)
- 生活が著しく損なわれるような強い疲労を主症状とし、少なくとも6ヵ月以上の期間持続ないし再発を繰り返す(50%以上の期間認められること)。
- 病歴、身体所見、検査所見で別表に挙けられている疾患を除外する。
- 小クライテリア(小基準)
- 症状クライテリア(症状基準)-(以下の症状が6ヵ月以上にわたり持続または繰り返し生ずること)
- 徴熱(腋窩温37.2~38.3℃)ないし悪寒
- 咽頭痛
- 頚部あるいは腋窩リンパ節の腫張
- 原因不明の筋力低下
- 筋肉痛ないし不快感
- 軽い労作後に24時間以上続く全身倦怠感
- 頭痛
- 腫脹や発赤を伴わない移動性関節痛
- 精神神経症状(いずれか1つ以上): 光過敏、一過性暗点、物忘れ、易刺激性、混乱、思考力低下、集中力低下、抑うつ
- 睡眠障害(過眠、不眠)
- 発症時、主たる症状が数時間から数日の間に出現
- 身体所見クライテリア(身体所見基準) - (少なくとも1ヵ月以上の間隔をおいて2回以上医師が確認)
- 微熱
- 非浸出性咽頭炎
- リンパ節の腫大(頚部、腋窩リンパ節)または圧痛
- CFSと診断する場合 - 大基準2項目に加えて、小基準の「症状基準8項目」以上か、「症状基準6項目+身体基準2項目」以上を満たす
- CFS疑いとする場合 - 大基準2項目に該当するが、小基準で診断基準を満たさない
- 感染後CFS - 上記基準で診断されたCFS(「疑い」は除く)のうち、感染症が確診された後、それに続発して症状が発現した例
但し、以上の基準は初期研究段階において、研究対象にする患者を厳格にふるい分けるために作られたものであり、小クライテリアが多く、また、精神疾患を持っていればCFSから除外という問題のある診断基準であるので、実際の診断にはもっと基準を緩めてもいいのではないかという意見が、一線の研究者からも出ている。
また、CFS患者特定の検査は、近年諸処現れているものの血液などの化学検査でそれ一つで確定できるようなものはない。現在では、症状を示す他の疾患である可能性を除外する除外診断が一般的である。このため、客観的にCFSを鑑別できるバイオマーカーの必要性が叫ばれていたが、大阪大学・大阪市立大学共同チームにより、血液 1,2mlに近赤外線をあて、約95%の確率で鑑別できる近赤外線分光法が最近開発された(しかし、CFS患者特有のスペクトルを起こす血液中の物質はまだ特定できておらず、研究プロジェクトを立ち上げる予定)。
!doctype>